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生命の起源 #1624 : LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life study
LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life Study

ID
1624
DATE
11/30/2005 02:49:33 PM
TITLE
[life:001624] 原生生物 ハテナ 見聞録
AUTHOR
"Origin" <origin@***.***>
BODY


LIFEの皆様

[Life:1610]で紹介いたしました新種の原生生物ハテナ
を見に,本日,筑波大学生命環境科学研究科の井上勲
先生をたずねました.以下見聞きしたことを「ざっと」まとめます.
(井上先生は,単細胞藻類研究の第一人者です.)


1.ハテナの位置づけについて

ハテナは,2次共生体である.2次共生体は,その内部に
1次共生体を取り込んだ細胞である.1次共生体は,共生
細胞(藻類の場合,葉緑体)を取り込んだ細胞で,これが
狭義の植物である.ハテナは,この植物を取り込んだ細胞
なので,厳密な意味では動物とも植物とは言えない生物
である.


2.ハテナの生活環について

ハテナは,細胞内共生が「起こりつつある」段階に相当
する生き物だと考えている.ハテナと類似の行動を示す
原生生物の中には,多種類の藻類を取り込んでは,吐き出す
ことを繰り返すものがいる.ハテナは,その段階から進んで
細胞内に他の細胞を長期間維持できるようになった段階だろう.
しかし,取り込んだ藻類は分裂できない.そのため動物細胞内の
ミトコンドリアのように,共生体が分裂後の2つの細胞に均等に
分布することがない.ミトコンドリアなどは,ハテナよりも共生
関係が進んだ段階と考えられ,共生体の分裂と,ホストの
分裂がシンクロするような仕組みが出来上がったことで均等分配
が実現したとかんがえる.

(このお考えに関する湯川と飯田の発言:
井上先生によれば,ハテナは共生藻類を2個?4個取り込む
こともあるが,ハテナが分裂する時は,かならず一方の娘細胞
にかたよる.もし,共生関係のみがハテナにとって有利なら,
2個取り込んだものを,1個づつもつ娘細胞を形成したほうが
有利なはずなので,共生以外に,共生体をもたない細胞をつ
くるという生活環自体に,何かのメリットがある可能性もある
のではなかろうか.)

ハテナは,現在のところ培養できない.なぜなら,ハテナが
取り込む特異的共生藻類が,何なのかわからないから.
ハテナは,この共生藻類をとりこまないと,分裂しないようだ.
遺伝子レベルでは,共生藻類の素性はわかっているが,遊離
状態の現物がみつからないとのこと.
(ちなみに,ハテナは,特異的共生藻類以外を取り込んだ場合
消化してしまうとのことです.)


3.原生生物における共生の意味について

原生生物は共生抜きに語れない.あらゆる種類の共生関係が
見つかる.原生生物の場合,単純な進化系統樹を想定するのは
困難で,ネットワーク状の系統関係と,システムの進化という
視点が必要である.

ちょうど現在,井上先生は,こうした視点をいれた本を執筆
中で,本年中に東海大学出版会から発行されるとのこと.

(ゲラを見せていただきましたが,すばらしい内容ですので
興味をお持ちの方は,ご購入おすすめします.もちろん私も
買います.)


4.ヌクレオモルフについて

2次共生体内部の細胞(1次共生体)もまた核を持っているが,
そのサイズは,ホストのそれと比べると小さくなっている.この
小さくなった核をヌクレオモルフと呼ぶ.さらに,1次共生体内部
の細胞(例えば,葉緑体)は,核が無く,DNAは細胞質に存在
する.これらは,細胞システムの制御が,共生体からホストに
移る段階で,共生体の遺伝情報がしだいに失われてゆくことを
意味すると思われるが,その機構や原因はわかっていない.


5.共生体周囲の膜について

2次共生体は,1次共生体を”食べる”ことで取り込む.
食べる時にできる食胞の2重膜が,1次共生体の2重膜の外側
から囲むかっこうになるので,1次共生体の膜は4重になっている.

面白いことに,ヌクレオモルフなどが進化に伴って完全に失われてゆく
にもかかわらず,この4重膜構造は維持されている.
4重膜であるため,共生体とホストが物質のやりとりをするには
複数のトランスポーターを介した複雑な機構が必要だが,
2重膜にして簡単にしたようなケースは見つかっていない.


(ここまで)


飯田一浩
総合研究大学院大学
葉山高等研究センター





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