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飯田様
国立天文台の大石です。
>企業の研究所におりますため下記のジャーナルは
>入手しづらいので
天文の雑誌ですので,入手しづらいでしょう。申し訳ありません。
天文台では購読しており電子版をダウンロードできるのですが,
さすがにメーリングリストにファイルを添付するわけにも行きません。
星間グリシンの検出の話は,専門家以外向けの解説記事はあまり
ないと思います。地惑合同大会などで紹介されている程度でしょう。
>そしてもう少しだけ啓蒙いただけるようでしたら,
>どうして星間物質にグリシンが含まれている/いない
>ということがそれほど騒がれているかお聞かせ下さい.
>
>それはもう膨大な量見つかったのでしょうか,
>生成するはずのない環境で見つかったのでしょうか?
ちょっと長くなりますが・・・
太陽系を誕生させたガス雲は,もっと巨大なガス雲が重力収縮して
できたものです。収縮は数千万年も続きます。そしてそのガスの
中で多種多様な化学反応により,様々な分子が形成されます。
これらの分子は星間分子と呼ばれており,現在130種類ほど知られて
います。これらはおよそ40年ほど前から発見され,その中には
地球上でもよく知られた有機分子も含まれています。アミノ基を
含んだ分子やカルボキシル基を含んだものもあり,かなり古く
からタンパク質を形成するアミノ酸が宇宙で生成されるのか?と
いう問いに答えようとする研究者がいます。これらの有機分子は
原始太陽系星雲の誕生とともに,彗星などに取り込まれると
考えられています。こういった小天体が合体・成長してできあがった
のが太陽系の惑星であると考えられているため,生命の起原が
もしかしたら宇宙にあるのではないのか?という問いが生じる
からです。最も単純なアミノ酸であるグリシンが最初のターゲット
なのですが,探査は失敗続きでした。
#アミノ酸がいれば生命が誕生することに直結するのではない
#ことは明らかですが。味の素の瓶から生き物は生まれません。
ところが2003年になってKuanらが「宇宙のグリシンを検出した」
とする論文を発表しました。Kuanらは,27本のものグリシンの電波
領域にある回転スペクトル線を観測しました。観測したのはオリオン
大星雲の中,銀河系の中心近くにある巨大分子雲などです。
こういう領域ではたくさんの有機分子が存在することが知られて
います。ですからグリシンがあったとしてもおかしくはないのです。
グリシンの回転スペクトルは実験室で測定されたパラメータを用いて
計算したものを用いており,誤差があること,また,最も強く観測され
るべきスペクトル線が見えていないことなど,論文出版直後から
報告内容を疑問視する声がありました。
私も追試観測をしたのですが,確認には至っていませんでした。
「見えるべきモノが見えないのだから,やはり怪しい」と思って
いたのですが,同様の見方をしていた米国の研究者が否定論文を
出した,というわけです。
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