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生命の起源 #996 : LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life study
LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life Study

ID
996
DATE
02/19/1999 10:23:23 AM
TITLE
[life:00996] 間接度の意味,その他
AUTHOR
Masayuki HIRAFUJI <hirafuji@***.***>
BODY


飯田様,荒様
平藤です。

Kauhiro Iida-san wrote:
>反作用を減らすとは,そのフィードバックを減らして(1)流れの方向を維持する
>(2)元の情報を変化しにくく保つことですよね?
>(面白い視点なので,ご一緒にもう少しつっこんで考察してみましょう.:)

間接度は「情報を保護しようとする意欲」と「上流と下流の相互作用の非対称性を築
こうとする意欲」の2つの意味を含んでいますね。

進化では下流からのフィードバックで情報を書き換えたいというラマルキシズム的誘
惑がありますが,どのように書き換えれば良いのかは一般には難しすぎます。そのた
め,通常は,「ダイレクトなフィードバックによる書き換えは百害あって一利なし」
として排除しているんでしょう。
しかし遺伝的アルゴリズムのように淘汰だけで実現できる進化はあまりに遅すぎるた
め,何らかのフィードバックに基づいた機構がある可能性は否定できません。
そこで,去年,「環境や競合等によるストレスの大小がDNA周囲のノイズの強弱として
フィードバックされるとDNA変化を引き起こすトンネル確率が変化し,ストレス最小を
目指してDNAの情報が最適化される」という大域最適化アルゴリズムを作ったんです
が,この考え方と上記の間接度の2つの意味が意外にマッチしていて,おもしろいと
思った訳です。


>伏見先生は上で,熱力学とのアナロジーで淘汰ポテンシャル(淘汰地形)
>という概念を提出しておられます.この概念は,イメージしやすいですが,
>その時点では,このポテンシャルがうまく表現できてませんでした.
>定式化できたか尋ねてみたいと思います.

1昨日,昼食を食べながら,淘汰がなぜ起こるかの物理的起源をちょうど議論してま
した。突き詰めると,2つのフェルミ粒子が同じ場所にいることができないという
「パウリの排他律」に行き着くんですね。パウリの排他律があるためにいす取りゲー
ムを強いられるわけです。物質とエネルギーの総量(リソース)が一定というエネル
ギー保存則ももう一つの原因ですが。


>うーん,それは確かに難しいですね.決まった物質の分布に関する情報は統計力学
>でも扱えそうですが,一つの分子が持っている形や各部の運動状態という情報は
>どうしたもんだろ.....

分子モータ同様,一分子になると量子論的扱いが必須となりますが,分子間の情報の
流れの定式化には量子コンピュータとのアナロジーが使えるかもしれないと思って,
考え中です。
「ほら,ここをクリックするとDNAにある2qubitの量子情報が酵素の方にこういう具合
に流れるんだよ!」っていう感じでモデルが動けば一番良いんですが...。
上で述べた大域最適化アルゴリズムを数10個の量子ユニットからなる簡単なモデルと
しJavaアプレットで作ったんですが,それでも計算にものすごい時間がかかりWeb上の
公開はあきらめました。DNAとタンパク質の間の量子論的相互作用をリアリスティック
に計算するのはペタフロップ級のスパコンでも不可能ですから,何らかのアナロジー
を使って相当な強引な単純化が必要そうです。

Kauhiro Iida-san wrote:
>飯田:相互情報量は,2つの情報源の従属度の指標なので,選択を表現するには
>あまり向かないと思います.
>(
>ご存知のように,情報源A,B間の相互情報量Iは
>I(A,B)=H(A)−H(A|B)  
>H(A)=-∑P(α)logP(α)
>H(A|B)は,条件付きエントロピー -∑P(α∩β)logP(α|β)
>で,A,Bが独立の時0になります.
>#誤解のないように注意しておきますが,上は情報理論のエントロピー
>#物質の分布に関するものは統計力学でいうエントロピーです.
>#それで,物質分布の相対エントロピーとか相互エントロピーという
>#場合は,新たに定義していることになります.


上記を読んでいて思いついたのですが(すみません,話が少しそれます),相互情報
量を厳密に定義あるいは計測できるとそれは生命現象の定量的な指標になるかもしれ
ません。
例えば,晴れかどうかが五分五分(すなわち事前確率が0.5)のときの「70%の確率で
晴れ」という天気予報は0.7の事後確率を与えます。このときの相互情報量は
log(0.7/0.5)=0.49ビットとなり,「天気予報は0.49ビットの情報をもたらしてくれ
る」というように使います。
さて,ここで問題にしたいのは事前確率の定義の仕方です。もし国民全員が天気予報
機能付き時計などをたくさん持っていて,それが気象庁の予報と同じ70%の的中率を
持っていると,国民にとっての事前確率は0.7となります。当然,気象庁の天気予報が
持つ相互情報量はゼロとなり,これは国民の実感にぴったりするでしょう。
生命現象ではランダムな変化や決定論的変化(カオスも当然含む)は我々にとって既
知ですから事前確率に含めるべきです。すると,相互情報量はある変化がどれだけ
「ランダムでもなく決定論的でもない」かを定量的に示す指標となります。「ランダ
ムでもなく決定論的でもない」っていうのは,まさに我々が感じる「生き物らしさ」
にかなり近そうです。


Takeshi Ara-san wrote:
>:平藤さん
>>下流のマクロな世界なら情報理論的な指標は適用できます。例えば,昔,粘菌の
>>内部の複雑な運動パターンを相互情報量の変化として可視化した研究がありまし
>>た(まだやっているかな?)。
>
>面白そうですね。情報の可視化には興味があるのでもし文献等がありましたら教
>えてください。

たしか数理科学の古い号にも載ってたと思い,手元にあるバックナンバーを調べたん
ですが,残念ながら見つかりませんでした。


Masayuki HIRAFUJI (hirafuji@***.***)
Computational Modeling Lab.(http://model.narc.affrc.go.jp/)
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