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生命の起源 #31 : LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life study
LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life Study

ID
31
DATE
09/08/1997 05:00:22 AM
TITLE
[life:000031] Re: What is life?
AUTHOR
"KOUICHI Takahashi-S" <t94249kt@***.***>
BODY


高橋@慶應藤沢と申します。


飯田さんにはevolveでも同じトピックに関して議論させて
いただき、大変お世話になりましたことがあります。
しかし少々の事情があって議論尻切れになってしまっておりました。
lifeはこのような議論を行うよい場になるものと期待しております。
今後ともよろしくおねがいいたします。

少々自己紹介をさせていただきますと、僕は慶應大学環境情報学部で
電子化細胞(E-Cell System)構築の研究をしており、主にシミュレーション
技法の基礎的なリサーチおよびソフトウエア開発を担当しております。学部生です。
この夏は某研究所とのコラボレーションのためアメリカに滞在して
おりますが、こちらの生物学者からもよい感蝕を得ているところです。



さて、通信の品質の問題からうまくタイミングをみはからって投稿することが
難しいため、少々先走りしてしまうようで恐縮ですが、以前のevolveでの議論の
うち飯田さんの投稿に対するレスの一部を投稿させていただきたい
とおもいます。evolveでの議論ではこの投稿が最後になってしまいました。

是非lifeの方々の御意見を伺いたいとおもっています。

もし議論の流れの妨げになるようでしたら別のスレッドとして
扱っていただいてもかまいません。また、一部無断引用になって
しまっています。申し訳ありません。 > 飯田さん


==============================begin

| > | 3.センサ,プロセッサ,アクチュエータ構造を持ち,刺激に
| > |   対して反応する.
| >
| > | 3.は,生命の能動性を代表するもので,システム内部,シス
| > | テム相互に通信,情報伝達基盤を与えます.特にロボティクス
| > | からのアプローチで注目されていま_*I_侶._*B
| >
| >[高橋様3080] これらは生命であるために不可欠の契機であると
| は考えません。

| > 例えば、地球上で発生した原初の生命がこのような機能を実現
| していた
| > とは考え難いとおもいます。
|
| 例えば,酵素1分子でもリガンドと結合する部位(センサ),結合
| したことによる分子の変形(プロセス),基質の分解(アクチュエ
| ータ)機構を持っています.

システムとしての生命そのものの性質とその構成素である酵素の性質は
全く別のレベルの話です。Aという機能単位によってBというシステムが
構成されているとして、もしA自身の機能をもってシステムとしてのBの性質を
説明しようとするならば単にAの機能を記述するだけでは不十分で、
Aが複数組み合わさってBが構成されたときにBにもそのような性質が創発する
プロセスも立証しなければなりません。
僕は例えば原初の生命であるRNA自己触媒システムそのものにとって、上記のような
要件がクリティカルなものだったとは考えません。


少し長くなりますがここで一つ確認しなければいけないことがあります。

生命の還元性の問題です。

生命現象の物理現象への還元性ならば、ほとんどの方が異論はないものとおも
います。パスツールにはじまってワトソン/クリック以降に繋がる分子生物学
の流れだからです。

しかし、単に「生命」といったとき、あるいは、「生命というシステム」を考
えたとき、システムとしての生命のレベルと、物理現象のレベルは必ずしも
一対一写像として対応するものではないと考えます。
つまるところ、僕は生命を純粋に物理現象として一義的に定義することは不可
能と考えます。誤解のないように追記しますと、これは生命が何らかの神秘的
な力によって働いているなどということでは全くありません。生命は完全に決
定論的な機械だと考えています。

では、何が生命を物理現象として記述するのを防げているのか、という話にな
ります。それを説明します。
最初の前提は、生命を構成する質料である機能単位の恣意性です。
地球上の生命は知られている限り全て同じ機能単位で構成されているのは皆様
御存知の通りです。つまり、主に炭素をベースとする高分子、特にアミノ酸が
ポリペプチド結合したタンパク質です。
しかし、考えうる限りどんな生命もタンパク質でできていなければならない、
とする決定的な根拠はありません。炭素のかわりにケイ素化合物をつかって
呼吸するたびに固体を排出するような生命も考えられるという話を小学生の時
に読んだ覚えがあります。もしなんらかの「生命の本質」である要件を満たす
ために必要な機能が得られるならば、材料はなんでもいいということです。
つまるところ生命システムを構成する質料よりもその物理的性質によって
発生する機能のほうがより本質的な要素だ、ということになります。

さて、ではその構成素の性質である機能が生命の本質か、というとそうではな
いとおもいます。それらの機能単位は依然として単なる部品であって、
生命を構成することが可能である、ということは言えても同じように
非生命の物体を構成することもできるから、またそのようなケースのほうが
自然だからです。
そこで、もう少し上位のレベルの議論が必要になります。つまり、機能単位同
士の関係性、例えば、ある機能単位と、その機能が作用する対象との関係、
あるいは機能が発現するために必要な要件である別の機能単位との関係です。
このような機能単位同士の関係性のネットワークが本質かな、と考えるわけで
す。しかし、僕はこれでもまだ不十分だと考えています。機能単位の関係性の
ネットワークでおそらく生命を記述はできるでしょうが、同じように生命とは
いえない別のシステムも記述できるからです。コンピュータや、自動車、電話
の交換網などの明らかに生命ではないシステムもこの方法で記述できます。
また、生命システムとこれらの生命ではないシステムを明確に区別することも
このような記述の方法では不可能だと考えます。

それでは単なる機械と生命機械を区別するにはさらにどのような考え
方が必要か、ということになるわけですが、ここで、さらにもう一つ上位の
レベルで考えます。つまり、関係性同士の関係性です。この関係性同士の
関係性のネットワークを維持することによって、自分自身が自分自身である
ことを維持し続けることができる、つまり生きているわけです。
もちろん、生命システムは物理的な機械なわけですから、
何らかの構成素を土台に存在しています。そこで、その関係性同士の関係性のネッ
トワーク(マトゥラーナ/ヴァレラに従ってこれを有機構成organisationといい
ます)は、具体的には構成素の産出関係で出来上がっているわけです。
つまり、構成素を常に産出し続けることで、次の殺那殺那に向かって自分自身
を産出し続ける、そのようなシステムを可能にする有機構成こそが、生命シス
テムの本質的な要件であるということになります。
これが、例えば細胞が代謝によって常に自分を構成する物質を入れ換え続けて
いることの説明にもなりますし、昆虫のサナギのように自分自身の物理的な
形態や機能が変化しても生というプロセスが連続していられることの説明にも
なります。
このとき、物理的な実体である構成素のconfigurationは生命システムの作動
によって発生する波、あるいは影のようなものであって、その物理的な側面だ
けを考えるだけではそこに生命が存在するのかどうかということを現象論的に
を知ることはできてもそれ自身は生命の本質ではないと考えます。
これが生命を純粋に物理現象として一義的に定義することは不可能だといった
理由です。

付け加えると、生命の定義としてよく言われる自己増植や生殖も
生命システムの本質的な契機ではありません。
これらはシステムの作動によって二次的に発生する現象であって、思考実験と
してもし増植せずに一代のみで終わる種がいたとしても、不稔性の個体
を生命ではないとはいわないのと同様にそれは依然として生命以外の何者でも
ないわけです。

そこで、

| > | 2.物理的境界で区切られた部分系である.
| >
| > | 2.は,複数の種類のシステムが共存できるようにし,自然淘
| > | 汰のメカニズムが働くようにします.また,能動輸送系の成立
| > | を促し,3.の構造を明瞭にします.コアセルベート,ミクロ
| > | スフェA,リポソーム,マリグラヌルなど,実験的に物理的境
| > | 界が形成されることが知られており,生命の起源を考える上で
| > | 重要と考えられているようです.
| >
| >[高橋様3080] 物理的境界で区切られる必要は必ずしもないとお
| もいます。
| > 位相的な単位体の定義で十分とおもいます。

| “位相的な単位体の定義”という意味がわからないままにお応えし
| ます.後ほど,より詳しい説明をさせていただきますが,物理的境
| 界とは輸送を妨げる仕組み,例えば膜や電界,流れ,凝集その他を
| イメージしております.もしそのような仕組みがなければ,均質な
| 境界条件のもとで,系全体の運動を支配する一つの方程式があるだ
| けで,異なる方程式に従う部分系が分離しえないと思います.それ
| では部分系間の相互作用,例えば,系の内側と外側の相互作用など
| も定義できません.部分系が区別できず,相互作用も無い状況での
| 生命は,私にはイメージできません.

「位相的な単位体の定義」という用語が御理解頂けるか、とおもいます。
もし物理的な境界が現象的には必須のものであったとしても、十分条件であっ
て必要条件ではないと考えます。

========================== end


それでは。


慶應義塾大学s 環境情報学部 (Bioinformatics Lab.) ‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾
高橋 恒一
_____Kouichi Takahashi t94249kt@***.*** _______



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