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生命の起源 #817 : LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life study
LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life Study

ID
817
DATE
08/05/1998 05:54:41 PM
TITLE
[life:00817] Re: Fractal Makes Life
AUTHOR
kawamura@***.*** (KAWAMURA Kunio)
BODY


早瀬さん.まだよく分からない点がありますので,まずFMLの概略あるいは理論の骨
子を説明していただければありがたいです.以下に早瀬さんのホームページついて引
用しながらいくつか質問させていただきます.

まずフラクタルな鉱物とは何ものか教えて下さい.下の説明ではどのような化合物を
想定すればいいのでしょうか.

>無機鉱物は、溶解・析出する臨界状態でフラクタルな構造を作る。
>そのようなフラクタル無機鉱物の無数の窪みが、有機物スープに晒される。
>窪みの中の様々の有機物は顕微鏡的なサイズの環境を作り、無機鉱物の溶解度などに影
>響を与える。

また,第1歩の生物に到るまでの筋書きについても質問があります.例えば「環境の
変化に対し、土台となる無機鉱物が溶解しにくいものが、フラクタル表面に選択的に
残る。」と言うことは具体的にどのようなことをお考えでしょうか.その他フラクタ
ル鉱物が機械的に割れると言いますが,どのような鉱物においてそのような現象が認
められるのでしょうか.

>生物の進化は、数学でいう「カオス」のように予測不能です。一つ一つの生命を見てみ
>ると、「AはBから生まれた。」とか「CはDとEから生まれたが、遺伝子pの所にこれこ
>れの突然変異を起した。」とか「Fは生まれてすぐGに飲み込まれた」とか記述可能です
>。しかし、それらがいくつも集まって繰り返し繰り返し起こるとき、何が起こるかを予
>測することは不可能です。

これらは専門家に聞いてみないと確かなことは言えませんが,進化を全く予測できな
いかというと,私はそうではないような気がします.例えば適応放散のような現象を
見ると,生物はある方向性を持って進化するのものなのではないかと私は思います.

>これに答えるのは難しいです。
>私はGraham Cairns-Smithの鉱物起原説をバイブルのように思っていましたので
>FMLの元となる理論のほとんどはこの説によっています。
>ただ鉱物起原説では、DNAでない「ローテク」の遺伝子が強調されていますが、
>FMLでは「遺伝子は進化の為の必要条件ではない」と指摘した点が新しい所です。
>FMLは、あまりに単純なので自然が採用する確率は高かろうと思ったのです。

遺伝子は重要な概念ですが,現在の生物ではDNAが遺伝子の本体であると考えられ
ています.親から子へ情報が伝わることを遺伝と解釈していいと思うので,遺伝子が
ない,あるいは遺伝がないということは情報を受け伝える仕組みがないと言うことに
なると思います.”情報が伝わることなしにコピーができるシステム”は生物と似て
いるところもあるかも知れませんが,現在の生物とどのような関係にあるか,あるい
はどのように生物へと移行したのかを考えないとシナリオ全体が見えてこないように
思います.

>1.「淡水と、海水+有機物スープに交互に洗われる、無機鉱物」
>というのを炭酸カルシウムなどのいろいろな無機鉱物について、
>実験を行えば、FMLが成立するか否か、判定できると思います。
>この場合海水は当該無機鉱物について過飽和の状態を保つ必要があります。
>無機鉱物の表面に、特定の有機物が、海水中より多く集まれば、FMLの可能性が
>より広がります。
>2.もしFMLが炭酸カルシウムについて成立すると仮定すると、
>貝類がその殻を作る生化学的しくみ等、現在の生物と炭酸カルシウム
>との関係の中に、生命発生の痕跡が残されている可能性があります。

一般に有機物が鉱物の表面に吸着されることがある,というのはよろしいと思います
.それがフラクタル鉱物にどう結びつくのかがよく分かりません.説明をお願いします.

>FMLは「鉱物の進化する可能性」を指摘するのみで、具体的な道筋は指摘していませ
>ん。

鉱物の多様性と生物の多様性のもっとも大きな違いは,生物の多様性は遺伝すると言
うことにあると思います.鉱物は,生物進化の意味の進化はしないと思います(もし
進化する例があれば教えて下さい).鉱物の多様性あるいは自己触媒的な増幅があっ
てコピーが作り出されたように見えるとしても,いわば,それは情報を伝えるメカニ
ズムによって増幅するのではなくて,物理化学的な条件で決定されるものです.鉱物
でも情報を伝える何らかの機構があれば,進化に類似した現象は認められるかも知れ
ませんが,鉱物の形態は化学平衡あるいは速度によって一義的に決定されるたぐいの
ものだと,私は考えます.

>残念ながら私にはそれを示す能力がありません。
>従ってFMLは学説とはいえず単なるアイデアといったものに過ぎません。
>ただ、RNAワールドやハイパーサイクルが、海水中でいきなり始まるように起こるよ
>り、
>フラクタル鉱物表面上で、フラクタル鉱物との関連で発達してくるほうが、
>自然に起こりやすかろうという、「感じ」がするだけです。

感じというのは,大切なことだと思います.しかし,それが仮説として成り立つため
には,色々な質問に耐えなければなりません.「起こりやすかろう」の部分について
なにか具体的な機構などを構想しておいででしたら教えて下さい.

>これはホームページを再掲します。
>「生命は、最低限次の条件を満たします。
>1.環境と区別できる本体がある。
>2.環境の中から本体を構成している材料を選び取ることができる。
>3.それを元に自分自身を再構成し、分裂できる。自分の子孫・分身を構成できる。
>4.  2.3.の動作原理の変更が可能で、環境に合わせて、進化する可能性を
>持っている。 」
>この一番緩いと思われる条件を、生命の最低限の定義と考えれば、炭酸カルシウムの
>ような単なる無機物から単細胞生物までを視野に入れることが出来ると考えます。

生命に類似した現象と生命とを比較して生命とはなにかを問う,と言うのが早瀬さん
のお考えの中心にあるのではないかと思います.しかし,共通の原理で扱えるなら鉱
物も生物の一種だと言っては,生命の定義の範囲を広げただけでも共通の原理で扱え
ることになるので,我々が知りたい情報を得ることにはならないと思います.鉱物か
ら生物が発展する可能性について具体性をもってシナリオを検討されたら,このアイ
デアの展望が開けてくるのではないかと思いますが,いかがでしょうか.
化学進化として原始地球上にあり得た反応の数は,はかり知れません.我々は実験室
でそれらのごく一部を再現できるだけです.多くの反応の中から化学進化に重要な反
応を選び出し検証する作業は大変ですが,その作業抜きにはその化学進化が起こった
可能性を示すことはできません.私も鉱物を触媒としてRNAを生成する反応につい
て研究してきましたが,鉱物が化学進化に対して重要な役割を果たした可能性は高い
と思います.鉱物が遺伝情報を持ちうるメカニズムが存在する可能性も否定できませ
ん.そういう意味で鉱物の役割は重要ですが,何しろまだまだ我々はその種の情報を
ほとんど持っていないと言っていいと思います.これからの実験を期待したいと私は
思います.
以上,回答などをよろしくお願いします.



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川村邦男
大阪府立大学 工学部 応用化学科
〒599−8531 大阪府 堺市 学園町1−1
電話    0722−52−1161 内線2356
ファックス 0722−59−3340

Dr. KAWAMURA Kunio
Department of Applied Chemistry
Osaka Prefecture University
Sakai, Osaka 599-8531, NIPPON (JAPAN)
TEL 81-722-52-1161 ext 2356
FAX 81-722-59-3340

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