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生命の起源 #738 : LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life study
LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life Study

ID
738
DATE
05/25/1998 08:36:51 PM
TITLE
[life:00738] Re: 質問(コドン
AUTHOR
kiga@***.*** (Daisuke Kiga)
BODY


コドンの割り当ての話です。

*****
飯田さん:分子進化リアクターで,人為的に色々なAT/GC選択圧をかけることで
コドン自体の進化を再現するという実験やっちゃえばいいんじゃないでしょう
か.
木賀:
 DNAの複製機構にプレッシャーを持つよう変異を入れた菌を培養するのも面白いと思
います。ただ、進化させるのに時間がかかってしまいますから、ある程度こちらで手
助けをする必要があるでしょう。問題は、コドンが変化した時に生育が有利になるよ
うなマーカーをどう設計するかです。

飯田さん:(それからええと,:)マーカーを設計するというのが良く分からないので
教えて下さい.)

木賀:説明不足ですいません。
 RNAでも、大腸菌でも、いろいろな遺伝型をもつプールの中から「当たり」を単離
するために何らかの指標が必要です。今回の場合は、マーカーとして、コドンの割り
当てが変化することが菌の生育に有利になるための仕掛けをイメージしてください。
 例としては、天然にも存在する、stopコドンにアミノ酸を割り当てる例があり
ます。stopコドンに対応するtRNA(サプレッサーtRNA)を準備します。tRNAの種
類によっては、アンチコドンをstopコドンに対応するように変化させても、アミ
ノアシルtRNA合成酵素(ARS)はそのtRNAを認識してアミノ酸を結合します。
 ここで、生育に必須な遺伝子にstopコドンが入る点突然変異を入れた菌を準備
した場合、この菌は適切なサプレッサーtRNAを供給されないと生き残れません。この
しかけで、stopコドンにアミノ酸を割り当てるためのtRNAをセレクションするこ
とができます。
 現在我々は、この系に少し手を加えて、ARSのセレクションを行っています。サプ
レッサーtRNAのうち、生物が元々持っているARSによってアミノ酸を結合されないも
のを準備します。これを上記の、生育に必須な遺伝子に点突然変異が生じてstop
コドンが入った菌に導入しても、その菌は生きられません。そこで、ランダムに変異
を導入したARSのプールも同時に導入すると、サプレッサーtRNAにアミノ酸を結合で
きる変異型ARSを持った菌のみが生育します。
 (この方法を拡張すると、stopコドン以外にも、あるコドンに現在の割り当て
と異なるアミノ酸を割り当てることができます。ただ以前のメールにも書いた通り、
ゲノム全体のそのコドンに異常なアミノ酸が入るので、菌は生きることができません
。そのためには、「空きコドン」を持った生物を探すか、「空きコドンを」を創る必
要があります。そんな生物を創る方法を考えてみたいです。)
 さて、本筋の「マーカー」ですが、上記の例では狭義には「生育に必須な遺伝子」
で、広義にはこれに変異型tRNA、ARSを含みます。

 ところで、ARSはtRNAとアミノ酸の両方を認識します。上記と別のトリックでアミ
ノ酸の認識を改変したARSをセレクションしてもコドン表を書き換えることができま
す。そして、現在の20種類以外のアミノ酸を認識するARSを創れれば、新しいアミ
ノ酸をコドン表に加えることができます。じつは、他のグループに先を越されかけて
いて、奮闘しているところです。興味のある方は
Rolf Furter, Protein Science vol. 7, pp. 419-426
も参照してください。新規なARSを創らなくても、異種性物からARS、tRNAを持ってく
ることで、ある程度コドンの割り当てを変えられる、という実験です。


*******

飯田さん:
ミトコンを考えますと,あれの中身って,通常の細胞質と異なる化学組成
に成ってるんじゃないでしょか? 酸化的燐酸化のために,膜の内外で高い
水素イオン濃度差をつくりますよね.酸素呼吸フルにやっている時は,マト
リクスが縮んでしまって見るからに可哀想な形状になったりしてますよね.

こういう溶液の化学組成が大胆に違うような場所では,アミノアシル
シンターゼなんかの特異性,もしくは至適条件も,シフトするとは考え
られませんでしょうか?つまり,例えば,pH(単なる思いつき)を変
えることで,コードも揺らぐということはないでしょうか?

木賀:面白い考えです。pH依存性の実験をさせていただくかも知れません。
実はARSは、やたらと水平移動した痕跡があります。では、水平移動した瞬間、外来
性のARSは生物にとって悪さをするのか、中立なのか、利益を与えるのかという問題
があります。さらに、その生物に元からあったARS、tRNAのシステムがどう変化する
と新しいARSをより良く利用できるのか、という視点もこれからの研究に必要になっ
ています。
外来性のARSの利益として一例を挙げます。ある細菌は、プラスミド上に真核生物型
のARSを持つことで、原核生物型のARSを標的とする抗生物質に耐性になっているそう
です。
ARSの水平移動に関しては、
Shiba et al. , Trends in Biochemical Science vol.22, pp 453-457
に良い総説があります。

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東京大学 大学院理学系研究科 生物化学専攻
           横山研究室 木賀大介
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