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生命の起源 #614 : LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life study
LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life Study

ID
614
DATE
03/16/1998 10:31:50 AM
TITLE
[life:000614] Re: What is life?
AUTHOR
"Kazuhiro Iida 飯田一浩 NEC基礎研究所" <iida@***.***>
BODY


荒様 LIFEの皆様

(学会報告のスレッドから戻りました :)


>飯田:上は,言ってみればあたりまえの結果ですが,
  >生命の起原において自己触媒分子ならば,「空間的に
>も」自己保存的な系が自動的に構成されることを示せ
>たと思います.
>
>具体的には,
>1. 自己触媒分子ならば,走化性によって消失を免
> れることができるということを示しました.
>そして,
>
>その反応過程を,幾つかのphysical criteriaをとおして
>観察すると,
>2.特定の部分系が出現することを示しました.
>
>最初これらの条件を満たす部分は全く検出されませんでしたが,
>反応が進むにつれ,各条件を満たす部分が特定の領域に出現し,
>全ての条件を満たす領域は,分布の移動方向の前方部分に出現
>しました.(ちなみに,その領域では波状のパターンが形成さ
>れていました.)

荒さん:

これを走化性と見るのはなかなか面白いですね。エントロピー
うんぬんは What is lifeのあたりの成果がいかされているの
でしょうか。

飯田:
「走化性」という用語については,「そのように定義して使う.」
とサラッと流すこともできますが,重要な問題が含まれますので説
明させていただきます.

「走化性」はご存じのように,細菌や線虫などの生物が,一般に餌
の存在を意味するアミノ酸や有機酸などの化学物質に惹かれて移動
してゆく性質です.従って,「生物でない」自己触媒分子に対して
,この用語を使うのは本来,妥当ではありません.

しかしながら,あえて「走化性」という用語を用いた理由は,筆者
が現象をシステム論的に捉えようとするからです.適当な用語が無
かったからではありません.

システム論では,システムの構成要素の大きさ,物質の種類などと
独立にそのシステム構造や振る舞いを議論します.「走化性」とい
う生物の性質・行動が,システム論的に,Aという式に書けたとし
ます.もし,他の現象がAと同じ式を満たしたとしますと,その現
象は,システム論的に「走化性」と同じ現象と考えます.

物質が生命に変わる相転移点を議論する時,このシステム論的視点
は本質的です.即ち,生命の構成材料については精力的な合成実験
の成果が積み上げられているにも関わらず,ヌクレオチドが合成で
きない等々不明な点が多々残されています.このスレッドでの我々
の興味は,それらの材料がどのようなシステム構造を獲得して生命
が誕生したかですが,材料が明確でない状況です.

それで,まず,どのようなシステム構造が生命の属性を満たしうる
かを知ることが重要だと考えます.(その際,物理化学的法則の下
で考察を進めると,さらに,どのような材料なら生命的システム構
造を造りうるか?も議論できるはずだとも,考えております.)

このような理由で,細菌や,線虫の「走化性」をシステム論的にザッ
クリで見なおして見ますと,その本質は,問題にしている entity,
例えば,大腸菌 の運動方向が,他の entity,例えば,アミノ酸の
密度分布の勾配(濃度勾配)に沿っていることだと言えます.最も簡
単には,j ∝ ∇[y] (jは,問題にしている entity の流れ,[y]は
他の entity yの密度)と書けるでしょう.
(化学物質の濃度が最高である場所,つまり餌が存在する場所を,
目を持たない細菌や線虫が予め知ることができません.それで自分の
回りの化学物質の濃度だけを頼りに,餌を探すことになりますが,そ
れには化学物質の濃度勾配が最も大きい方向へと進むかそれに近い方
向へと移動せざるを得ないことは疑いありません.)

j ∝ ∇[y]なる関係を評価するとき,jが,自己触媒分子の流れであ
っても,yがその基質分子であってもかまいませんので,この式が満た
された場合,その部分系は「走化性」を持つと言いました.

より正確には,「システム論的走化性条件を満たす」とか「走化性の
物理的クライテリアを満たす」言うのが良いかもしれません.ちょっ
と悩んでおります.
(「走化性」など特に生命臭い振る舞いの場合,現存する生物のイメ
ージが強く,違和感も大きくなるからです.)




話しは変わりますが,走化性は,環境への「適応能力」という生命の
性質を具体的に書いて行く時,特にベーシックな能力であると考えら
れます.適応能力といっても,それを具体的に記述するとなると,膨
大な事実を考慮せねばなりません.でも,それらを整理して幾つかの
クラスに簡潔に記述してゆく作業は,大変面白い作業になるはずです.
(そうした作業は一人だけでシコシコやっても時間がかかりますし,
オープンに議論されてはじめて正しい方向が見える性質の作業だと思
っております.)


飯田@NEC

(つづく)
--
"Life and Evolution '97"
Kazuhiro Iida,
Fundamental Research Laboratories, NEC Corporation,
34 Miyuki-ga-Oka, Tsukuba, Ibaraki, 305-8501 Japan.
TEL +81(298)50-1142, FAX +81(298)56-6136.




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