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生命の起源 #501 : LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life study
LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life Study

ID
501
DATE
01/12/1998 04:41:29 AM
TITLE
[life:000501] Re: Marine Origins
AUTHOR
"Hajime Mita 三田 肇 筑波大学" <mita@***.***>
BODY


飯田 様 LIFEの皆様
>
> おはようございます.
>
> 飯田: >の中には,シアノペンタアセチレン($ HC_{11}N $)みたいな,そこそこ
> >長い炭素鎖を持った物質も検出されているようですし,あるいは
> >長鎖脂肪酸も?と僅かに期待しております.
>
> 荒さん: 生物の脂質合成ではC-Cの伸長反応にはS(イオウ)が(実際は-SH)関与
> しています。その場合の基質も酵素の活性中心も-SHを持っています。
>
> 飯田:
> アセチルCoAのことですね.自然界でいきなりCoAのような物質ができたら,
> 脂質合成もありえるのかなあ.CoAは,ADPに似た物質とパントテン酸と
> チオエタノールアミンが,この順番に結合したものですが,こういう物質の
> 自然合成は知られているんでしょうか?
> -SH チオール基が使われているというのは,意味深.
> 硫黄に富む火山由来の熱水の周辺では,チオアルコールぐらいは,
> 自然合成されてもおかしくないとは思うのですが.
> うーん,情報不足.
> (# 三田さん助けて下さい.)
>
> あと,余談ですが,
> 少なくとも高等動物で見られる脂肪酸のほとんどは,偶数の炭素
> (16個,18個が多い)からなる脂肪酸で,シアノペンタアセチレンの
> ように奇数個の炭素鎖から成るものは,ほとんどみられません.これは,
> アセチルCoAが合成の素材になっているからかもしれませんが,これも,
> 何かの選択の結果には違いないでしょう.

名指しされてしまったので、簡単に化学進化の研究を行っている立場からいくつかコ
メントさせていただきます。結構いろいろ話が出ていたので、いつどなたの発言かわ
からなくなってしまったものもありますので、引用がとぎれていますがご容赦下さい
。また、話が広がって書いていて議論の目的と離れた部分もあるかもしれません。

まず、海底熱水噴出口は、エネルギー勾配の存在、種々の金属イオンの濃縮などがみ
られ、化学進化の場として有望であり非常に興味深いものです。しかし、注意しなけ
ればならないのは、原始地球に存在した反応と同じことが一部は起こっているかもし
れませんが、現在の海底熱水噴出口から湧いている有機物は地球上の生物に起源する
と考えた方が良いということです。ここで高濃度に存在する有機物が、即、生命の起
源物質とは考えない方がよいということです。ないしろ、海底熱水噴出口周辺にはす
でに多くの高等生物すら存在しているわけですから。

SH、SSHの関与は、しばらくあまり見なかったと思ったのですが、この1、2年
非常に多くの研究例が報告されるようになっています。
C−C結合を作るためと言うより、エステル(アミド)結合を作る上で、非常に有用
な反応中間体です。
たとえば、Liu, Orgelら(Nature 1997, 389, 52 )、Severinら(Nature, 1997, 389,
706), Giulio(Biosystems, 1996, 39, 159)など。
これらの反応が化学進化の場で利用され、アセチルCoAのようなものへ進化していっ
た考えられます。ただし、アセチルCoAは核酸と同じようなものですから、相当に進
化した形であると考えた方がよいと思います。アセチルCoAの本質は、CoAにあるので
はなく、アルキル-SHにあると思います。どのような化合物がどこにどれだ存在す
るかというデータはすぐ出てきませんが、簡単なものならどこにでもあったでしょう。

つぎに、長鎖脂肪酸ですが、現在の細胞膜を構成しているような長鎖脂肪酸は非常に
合成が難しくなります。(特に、選択的に作られるには)地球上の生物の長鎖脂肪酸
の特徴は、分岐がなく、炭素数が偶数であり、C16とC18(ワックスではC30位)が非
常に多いという、相当な選択性を持っています。一方、隕石中の脂肪酸や化学進化的
合成実験では、一般に炭素数が伸びると指数関数的に存在度が減少します。また、直
鎖分子より分岐をもつ分子が多くできます。また、考えられる異性体のほとんどが検
出されます。これらは、炭素が一つづつ伸びていく反応が起きている系での特徴です
。炭素数が16や30となると何らかのユニット構造が連なったと考えるべきですが、長
鎖脂肪酸をつくるユニットを選択的に作ることは困難に思えます。現在の脂肪酸合成
のように2個単位の合成からでは、1個づつ伸びていくのと脂肪酸の特徴を引き出す
上で大きな違いはないでしょう。古細菌にみられるイソプレノイド系のエーテル膜が
、まだ簡単そうな気がします。

ところで、脂肪酸の話が出てきたのは、細胞膜をイメージされたからだと思いますが
、現在の古細菌のエーテル膜や、プロテイノイドミクロスフェア、マリグラヌール、
コアセルベート液滴など、構造物の構成に必ずしも脂肪酸エステルが必要なわけであ
りません。やはり、脂肪酸エステルはかなり進化した形のような気がします。

最後に、脂肪酸の炭素数が偶数なのはアセチルCoAが元に待っているからでなくマ
ロニルCoA単位で合成されているからです。(マロニルCoA合成にはアセチルC
oAが必要ですけれども、アセチルCoA単位では炭素数が1つしか伸びません)


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三田 肇 MITA, Hajime

筑波大学化学系宇宙化学研究室(下山研)
305 茨城県つくば市天王台1−1−1
Tel : 0298-53-4134, Fax : 0298-53-6503

Department of Chemistry, University of Tsukuba
Tsukuba, Ibraki 305-8571, NIPPON (Japan)
Tel : +81-298-53-4134, Fax : +81-298-53-6503

E-Mail : mita@***.***
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