生命の起源フォーラム (ORIGINS OF LIFE FORUM) - help
生命の起源フォーラム (ORIGINS OF LIFE FORUM)
Welcome to 生命の起源フォーラム (ORIGINS OF LIFE FORUM) - help -
生命の起源 #401 : LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life study
LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life Study

ID
401
DATE
12/09/1997 11:00:12 AM
TITLE
[life:000401] Re: E-Cell
AUTHOR
"Kazuhiro Iida 飯田一浩 NEC基礎研究所" <iida@***.***>
BODY


白倉様 LIFEの皆様

ここで問題にしているのは,現象を詳しく記述する計算機モデルは,
生命を理解するために,有効な研究手段か?という
一般的な問いかけだと理解しております.

私は,有効だと考えます.

理由を一言で言えば,そのモデルが,

1.実験結果との突き合わせが可能で,
  我々の知識の不足が鮮明になること,

2.主導原理から現象に至るギャップの多くのステップ
  を捉えており,生命現象の成り立ちを理解することに
  役立つこと

です.

1.の理由は,「実態への漸近」という科学の方法論そのものです.

2.の,より詳しい理由はこうです.

白倉さん> 必ずしも,単純な原理があると確信しているわけではなく,
> すでに存在する原理とほぼおなじものを別の名前で述べるという
> 無駄をしたくないだけです.

飯田:特定の原理で説明可能な現象があることは事実です.ただし,
生命現象が,全てそのような単純なモデルで説明できるとは思えません.
考えてみて下さい.

生命現象は突き詰めれば,原子の運動です.ならば,原子の運動原理
Schro:dinger方程式を知っていれば,全ての生命現象を説明できるで
しょうか?

同様に,反応拡散方程式を知っていれば,細胞内で起こる全ての現象
例えば,能動輸送,RNAのマイグレーション,遺伝子の発現の
細胞内パターンが説明できるでしょうか?

細胞の内部には,素晴らしく組織された微細構造(オルガネラ)が
あります.このような場合,反応拡散方程式そのもの,というより
は,それらの微細構造の配置等の方が細胞のマクロな振る舞いに対
してドミナントに効いてきます.つまり,マクロな振る舞いに関し
て境界条件が,主導原理と同等以上の発言権を持ち得ます.

先のメールでこのような状況をひとからげに,
「複雑さのギャップ Complexity Gaps」 と呼びました.

単純なモデル(主導原理を含めて)から現象に至る道筋には,

1.境界条件および初期条件の不確定性
  例えば,小野さんが注目される膜という境界などを,予め決定
  する根拠が不明という意味

2.高橋さんがご指摘下さった計算量の意味での不確定性
  原理を知っていても,その結果を直ちに知ることはできない
  という意味での不確定性

があります.

さらに,このギャップ自体が,大きな研究対象であること
を指摘できます.

反応拡散方程式という法則性すら個々の原子の運動に還元できま
す.それをなぜ,我々は,反応拡散方程式という形で捉えて
いるのでしょうか?実空間の持つ様々な制約を反映したマクロな
振る舞い,そこに生じる法則性に興味があるからではないでしょう
か?

原子,分子の運動に,統計や化学反応という視点が加わって反応
拡散方程式のスケールの現象が理解されるのと同様に,複雑さの
ギャップを様々な視点から眺めて,その中に,生命に関する規則
性やシステム構造を見いだすことができ,そうすることで生命現象
が次第に「わかって」ゆくのではないでしょうか.

現象を詳しく記述する計算機モデルは,このギャップを様々視点
で眺めなおすのに大変便利です.例えば,熱力学的視点を取ると
き細胞の局所的なエントロピー生成など実験では計測不可能な
指標まで推定できるでしょう.

飯田@NEC
---
"Life and Evolution '97"
Kazuhiro Iida,
Fundamental Research Laboratories, NEC Corporation,
34 Miyuki-ga-Oka, Tsukuba, Ibaraki, 305 Japan.
TEL +81(298)50-1142, FAX +81(298)56-6136.


-----
Go to page top