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生命の起源 #331 : LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life study
LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life Study

ID
331
DATE
11/07/1997 08:27:42 AM
TITLE
[life:000331] Re: E-Cell
AUTHOR
"KOUICHI Takahashi-S" <t94249kt@***.***>
BODY


高橋です。



| >飯田 | おっしゃる意味はわかります.でも,システムの構成要素と,それが観察される
| > | コンテキストを区別することって,観察という概念を入れた段階で,部分と
| > | 全体の議論になりませんか?
| >
| 高橋さん> これは何らかの誤解とおもわれます。
| > 上の文のいいたいことは、
| > 「系を環境との関係で語るのではなく、また観測者の認識主観との
| > 関わりで語るのでもなく、純粋にその系をその作動により記述することで
| > 単位体を定義しよう」という一文に集約されます。

| 飯田:
|
| 1.書くことは区別することですから,「書かれたもの」は,松野先生の言葉
|   を借りれば鳥観図を書くものの視点,全体の視点にあるように思います.
| Varelaは,つまり書けないものを書こうとしているのでないでしょうか?
| Varelaの視点は,元々,そこに矛盾があるように思えます.

対象の観察に重点を置けばそのようになりますが、観察により
得られた知識を総合して理解する段階においては必ずしも
そうはいえないとおもいます。

例えば、解明しようとしている対象がCDプレイヤーだとして、観察により
あるボタンを押すと出力端子に挿入したCDに刻まれたピット列と
相関のある電圧変化が生じる、5G以上の衝撃を与えると
光ピックアップをサーボが支え切れないため電圧変化が停滞する、
等といった事実が得られます。このような現象論から直接得られる知識
はせいぜいどれがCDプレイヤーでどれがそうではないかという判断基準
程度のものから著しく飛躍することはないでしょう。
システム論的理解とは、これらの知識からさらに踏み込んで
対象の回路の構成や制御プログラム自体を理解し、なぜその機械が
そのような動作を行うのかを機械の特性のみにより説明することです。
このときには書くということは客観的に観察できる回路素子の
組み合わせそのものではなくその組み合わせにより生じる動作
同士の関係の記述を含みます。この場合には観察とは
無関係な系そのものの持つ特質も利用して記述が行われます。



| 高橋さん> 望みはもちろんありますが)、「オートポイエシスの見方でなければ
| > 説明不可能な現象」はないといえるとおもいます。
|
| 飯田: 私もそう思います.

この点についてはうまく真意を伝えることができなかったようです。
元の文はこうです。

(高橋)
| 説明可能ということが、「細胞を構成する原子あるいは素粒子の全ての
| 位置と運動量を得て、連立微分方程式(多体問題)を何らかの方法で積分
| することで時間的な推移を予測する」ということを含むのであれば、
| もしそのようなことが可能であれば(統計力学を使えるのであれば
| 望みはもちろんありますが)、「オートポイエシスの見方でなければ
| 説明不可能な現象」はないといえるとおもいます。
| ただし、もしそうだとしても、現象の説明と対象の理解は異なります。
| 僕は、上記のような方法論によって得られる知見から生命システムに
| 関する本質的理解が得られるとは考えません。

要約すると言いたいことは二つです。

まず第一に、
もし初期値、境界条件および物理法則により
系を構成する原子の位置と状態の遷移を説明できた(ラプラスの魔)
として、もしそれを説明というのならば、量子力学のみでこの宇宙の
全ての事象を説明できることになり、我々が行っている議論は
理論の上では無意味なものになります。

第二に、
それは記述ではあっても通常は説明とはいいません。
(カラスはどうやって鳴くのか->空気の流れが声帯を震わせる)
仮にそれをもって現象の説明としたとしても、対象の理解とは
本質的に異なります。



| autopoiesisのように,生命のダイナミクスが最初に定義されるのでなく,
|
| 生命のダイナミクスは未知として,我々のコンセンサスのある概念「生命」
| は,どのようなダイナミクスで得られるか?と考えるわけです.
|
| 4. autopoiesisの考え方は,研究(ターゲットへの漸近)という行動に
|    関して,本末転倒になっていることにもお気づきになるでしょう.

本末転倒とまで言われるのは一面的な見方にすぎないでしょうか。
これら二つのアプローチはやり方が違うだけのみならず得られる
知見もそれぞれに視点の異なった意味のあるものになるとおもいます。
細胞をはじめとした生命システムの個々の事例における現象論は
有機物の生合成にはじまり物質輸送や分裂等をはじめ分子レベルに
留まらず抽象化して議論できるまでに発展しておりますから、
これらを総合して一般的なモデルを構築することは十分意味のあること
と考えています。このときのモデリングのやり方も現象論、物理化学的な
もののほかにもシステムのダイナミクスに重点を置いたやり方が
あっていいとおもいますし、そのほうが一般的な生命の本質を理解
する雛型になり易いと考えています。


| (中略)
| > まず前者は系をそれそのものの動作によってのみ説明できていますし、
| > 後者はさらに自分自身の位相的配置、構成も自分自身で規定できています。
|
| x + s -> 2 x といった化学反応系
| dot{X}(r) = - D $
abla X$といった方程式はそうではないわけですか.

# 質問自体の意義があまり理解できていないので的を得た
# 答になっているか自信がないのですが、、
式自体は記述であって系そのものではありません。
客観的、主観的、等を規定しているのは式を解してモデルを
再構成するときに関与する我々の認識構造、もっと曖昧にいえば
数学的、自然科学的な知識の体系です。
上の式の場合はこのような構造をもってモデルを理解するには
単純で曖昧であり、どのようにも理解することができます。
量のあいだの関係性を記述しているという点では客観的ですし、
系の動作を示しているという点では自己規定的です。



ここで議論を整理すると、

1. 現象論的理解のみならずシステム論的理解が必要なのは何故か
2. 観察による鳥瞰的視点を排除する意味はあるのか

の二点が問題になっているようにおもいます。

1.に関してはここまでも何度も述べてきましたし、当初から
御理解頂けているという感じがしています。

問題は2.です。これは1.をつきつめる一つのアプローチとして
必然的に必要になってきたものですが、以下の御質問に関係
しています。


| 飯田:
| 2.もちろん,この辺は理解しております.理解した上で,
|   しくみ,成り立ちは,全体の視点で書けますし,

| > 位相的な空間、特にオートポイエーシス論の場合は産出関係の
| > ネットワークにより現前するオートポイエーシス空間での現象に
| > 注目し、この空間において一般的に不変な構造を扱うのであって、
| > 物理的な時空間において不変な構造を扱うのではありません。

| 飯田:
| 3.その空間と実空間が直接には結びついていないという
|   理由である事物が autopoietic であると判定するのが難しい
| (といいますか,不可能に近い)わけですよね.
|
| それよりは,実空間との対応が良くとれた空間で議論するほうが
| いいんではないでしょうか?


この問題はベルグソンからドゥルーズ、さらにルーマンやマトゥラーナに
引き継がれてきた哲学的問題でもありますが、
生命の主要な特徴であるシステムの自己の自己規定や、
生化学におけるハイパーサイクルの存在等を
エレガントな形であらわす場合に、系のダイナミクスの観察者による
規定は望ましくないものなのです。
有名な例え話ですが、ハチがハチの巣を作るとき、
ハチの頭領がいてそれが設計図を見ながらハチの子分どもに
一々指令をしているのではなく、各々の働きバチが各々の
動作原理に従って自由に行動してゆき、その結果として最も効率的に
巣をつくってゆくことになります。ここでは全体的な視点から
見た巣ができてゆく過程はまさに現象論であり、その視点からの
解釈は本質ではありません。それよりも、各々のハチそのもの
を構成素とし、ハチとできつつある巣との相互作用、ハチ同士の
相互作用のダイナイミクスを要素とするシステムのレベルでの
議論が有効になります。このような場合には相互作用
のみを抽出した理想的な位相空間での議論が取り扱い易く便利であり、
観察者とハチとの関係により発生する記述は排除すべき要素になります。
このことは細胞はじめ自己組織化システム一般にいえるとおもいます。


| 飯田:
| 先に述べた意味で,autopoiesisの見方は,誤っていると思います.
|
| 5. 新たな発展を考えられる場合にも,このQ1.Q2.は,試金石に
|    なると思います.

非常に重要で鋭い御指摘であり、今後心に留めておくようにします。


慶應義塾大学s 環境情報学部 (Bioinformatics Lab.) ‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾
高橋 恒一
_____Kouichi Takahashi t94249kt@***.*** _______


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