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生命の起源 #1403 : LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life study
LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life Study

ID
1403
DATE
06/21/2002 11:49:02 AM
TITLE
[life:001403] 生体はカオスを利用しているか
AUTHOR
Kosaku Inagaki <inagaki@***.***>
BODY


飯田 先生

> といいますか,カオスを積極的に利用していると本気で思える
> 例を知らないので,稲垣さんの証明の中で,何か積極的な意味
> があれば,もっと考えてみようかと思った次第です.

積極的に利用しているという主張に一番近いとして引用されるのは、
フリーマンの嗅球の研究でしょうが、ほんとうにカオスだと立証されて
いるか疑問がありますので、仮説とみなした方がよいでしょう。

生体にカオスが現れるはずだということを、ヤリイカの神経で
立証したのは、合原一幸さん(1980年代半ば)。テント写像型ですので、
これは異論のない実験です。ただしカオスが出る特性をもっている
からといって、カオスを積極的に利用していることにはなりません。

合原さんは「ニューロカオス」という立場で実験しています。
カオスを積極的に使った方が、ニューロはうまくいくだろうという
立場ですが、実験途上というところでしょうか。本や文献が多いですから、
そのご研究はあちこちで見かけると思います。

人体がカオス特性をもつことをきちんと立証した研究には、
赤松則男さん(徳島大学)の研究もあります。いま別刷が見つからなくて
困っています。カオス発見者の上田ヨシスケ先生の一番弟子です。
テント写像が出ることを示しておられたと思います。発表したら
あっという間に別刷がなくなったが、日本国内からの送付依頼が
1件もなかったとあきれておられました。かなり以前のご研究です。
そのうち別刷をみつけたらお知らせします。筋肉の特性だったか何かです。

赤松先生の文献はなかなかみつけにくいです。多くは特許がらみです。
この論文はオープンな国際学術誌ですが、医療機器にからんでいたのでは
と思います。(最近はカーボンナノチューブで太陽電池を作るという
秘密の大特許を日経新聞にすっぱ抜かれて怒っておられました)

赤松先生の場合は、診断に利用しますので、生体側が何らかの
意味でその機能にカオスを利用しているというのに近いと思います。
カオスからはべき乗則に近い分布が出ることが多いので、
f分の1ゆらぎの背後にカオスがあるかしれませんが、実験的に
厳密に立証するのはかなり困難かと想像します。f分の1ゆらぎの
実験には信頼性の低いデータも多い(1桁か2桁のf分の1では無理)
ですので、まだ道は遠いでしょうか。

私自身は、カオスでない「カオスの縁」の側の研究者ですので、
積極的に利用はまだしていません。複雑系の別の性質を使って
知能を実現しようと試みています。カオスを利用したニューロや
カオスを利用しないニューロよりうまくいっているかもしれませんので、
新しいライバルになれればと願っています。赤松先生や合原先生には
発表前からこんなデータが出ているとお知らせしています。

というわけで、生体がカオスを積極的に利用しているかはよく存じません
と申した方がよいでしょう。ただ「意識」のランダムネスといった点で推測して、
ランダムネスの利用はしているべきだという立場です。そのランダムさを
生体内部で発生しているか、センサーからの外部ノイズとして入って
くるか、どちらでもいいので、生体内機構は謎のままです。

なお、時間遅れとカオスの問題は、自動制御工学では古くから
実験にあらわれていた問題でした。たとえばサンプル値制御系で、
温度を安定化させる問題などです。エアコンの温度制御に、ある程度の
時間遅れを入れないと、かえって温度が不安定になってしまいます。
昔から電気工学者には常識の問題でした。いま生体カオスの本を
ながめていたら、時間遅れのあるカオスを「日本で初めて」書いたと
あったので(1996年の本)、それは誤解だと思いました。分野が少し
違うだけで、常識がすごくかけ離れています。

いま赤松先生からメールで、論文の書誌事項が来ました。
合原さんと同時期の論文です。
N.Akamatsu, B.Hannaford and L.Stark:"An Intrinsic Mechanism for the
Oscillatory Construction of Muscle," Biological Cybernetics, Vol.53,
pp.219-227, 1986.

〒606-8501
京都市左京区吉田本町
京都大学 情報学研究科
稲垣 耕作
E-mail: inagaki@***.***
URL: http://inagaki1.kuis.kyoto-u.ac.jp/~inagaki/
TEL/FAX 075-753-5978
*教室内のハッカー侵入騒ぎで、ホームページのアドレスが
 微妙に変わりました。

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