LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life Study

ID
1286
DATE
09/07/2001 09:27:15 AM
TITLE
[life:001286] Re: What is life? : a tiny tree toward the
AUTHOR
Kazuhiro Iida <piyopiyo@***.***>
BODY


三田様 lifeの皆様

先の表をご参照下さい.
まず分類項目自体の重要度を検討し,次に重要な項目について議論したいと思います.

1.分類項目の重要度に関する検討

表で,「○」は条件を満たしていること,「?」は判定不能だったことを表します.
まず,目につくのが,低位スケールの構造要素に関する条件で,多種類の構造要素から
成るかどうかについて「?」記号が多いことです.これは,[life:001285]で三田さんが,

>ところで、コアセルベートはオパーリンのコアセルベートですね?コロイド化学での
>コアセルベート全体に比べると、原理は同じはずですが、条件・材料が限定されてい
>ます。議論がかみ合わなくなるといけませんので。

とご指摘下さったことが原因です.分類しようとする対象物の中身を曖昧に想定している
ことに起因します.コアセルベートは,オパーリンのアラビアゴムコアセルベート,ヒドロゲル
は,水酸化アルミニウムゲルをイメージしていますが,同じ範疇に分類されるものが他にも
多くあるので,「?」になってしまいました.構造要素が多種かどうかは,膜という構造物の
特徴としてはあまり良い指標ではなさそうです.高位スケールの局所構造が多種かどうか
も,同じ理由であまり良い指標ではなさそうです.

良くない指標から書いてしまいましたが,重要そうなものから挙げると,
1.局所配置における流れ制限
2.低位スケールにおける2次元化可能性/高位スケールにおける空隙の存在
3.高位スケールの形状が閉じていること
4.高位スケールの形状の準安定性
5.低位スケールの凝集性/低位スケールの局所安定性
でしょうか.
これは指標を○の数の少ない順,構造間の共通項が少ない順に並べたものです.
生体膜との共通項が少ない指標ほど,生体膜の特徴としてクリティカルだと思うからです.
「/」で区切って,同じ順位に並べている指標どうしは,同時に「○」になると思われる項目
です.例えば,同じ現象の原因と結果を見ているような場合だと思われます.



2.各指標に関する議論

1)流れ制限が強いこと

この指標は,その位置を介する物質やエネルギーの流れが極めて「ゆっくり」起こることを
意味します.「ゆっくり」とは,低位スケールに特徴的な長さ,時間を基準に計った場合,
その透過速度がほぼゼロと見なせることを意味します.低位スケールとは,この場合
?1ナノメートル,?1ピコ秒の時空間スケールです(*1).脂質膜については,Chakrabarti
とDeamerがアミノ酸と燐酸の透過係数を計測していて(*2),室温(?25℃)で10^(−11
から−12)cm/secだそうです(この係数に膜の面積と膜の内外の濃度差をかけると,毎秒
当たりの輸送量(モル)が得られます(Fickの法則)).

この係数ですと,仮に10mMの濃度差で1cm^2だった場合,毎秒0.1?0.01ピコモルの
イオンが運ばれる計算です.これを1nm^2,1ピコ秒で計算しなおすと,1タイムステップあたり,
10^−39?−40モルのイオンしか移動しないことになります.つまりアボガドロ数を6×
10^23として,1タイムステップあたり,?10^−15から−16個のイオンしか運ばれない,
もしくは1個のイオンが運ばれるのに10の15から16乗タイムステップ(実時間で,数時間から
数日)必要なことがわかります.このスピードはほとんどゼロと見なして良いでしょう.ナトリウム
イオンとかカリウムイオンなども,このオーダーだそうです.

次は,短鎖(炭素数10以下)の脂肪酸を材料とする脂質膜,あるいは炭素数18以上の脂肪酸
からなる膜ですが ,(つづく).


*1: 低位スケール,高位スケールの実寸法は,検出しようとする対象物に応じて変化します.
例えば,葉,胃などの器官を高位構造,細胞を構造単位とみなせば,高位スケールは?0.1m,
?1秒,低位スケールは,?1ミクロン,?100マイクロ秒程度でしょう.

*2:電解質を透過性の基準にした理由は,生体材料のほとんどが電解質であるためです.


飯田一浩

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