LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life Study

ID
1257
DATE
08/22/2001 10:30:40 AM
TITLE
[life:001257] Re: What is life? : There is no life, but organism.
AUTHOR
Kazuhiro Iida <piyopiyo@***.***>
BODY


三田様 lifeの皆様

三田さん> 分解した内容は、わかりました。これなら、確かに包含関係があり、生命体の境界に
> 関する定義として納得できます。しかし、「恒常を維持するように見える」が適当な
> 言葉なのでしょうか?非常に単純に考えますと、完全な均質な場では変化が全くなく
> 「恒常が維持されている」のではないのでしょうか。

飯田:
三田さんのご指摘は,次の2点にかかわるかと存知ます.
1.その一定の状態が外的に保証されているか否かを問題にするのか?
2.主体性を表すべきかどうか,より客観的な表現にすべきではないか?

第一の点は,「恒常性を維持するように見える」の意味では,
完全に均質な場が,何によって保証されているかを問題にしています.
均質であること(特異的な分布を生じ,それが維持されていること)が,
その系の構造に大きく依存していることを要求しています.

例えば,岩石の内部の一点は,極めて均質で安定な状態なので,
おそらく三田さんの言われる「恒常が維持されている」状態なのですが,
「恒常性を維持するように見える」では,そこに擾乱が加えられた場合でも
元の状態に復帰することを意味する「小さな擾乱に対して安定」という
小項目でさらに意味を絞り込んでいます.岩石の場合,微細な結晶が
共有結合,あるいはイオン結合でつながって,特異的な分布を形成して
いると思われますが,その結合エネルギーと同程度の擾乱が加わった場合,
結合が切れてしまい,先の特異的な分布は失われ,「恒常が維持されている」こと
を判断する基準になった時間スケールでは,組織の回復は見られないでしょう.

しかし脂質膜の場合,その回復が見られます.脂質同士は,疎水性の相互作用
によって束ねられた特異的な分布を形成しています.その疎水性相互作用と同程度
の擾乱が加わると,一時的に,形状が変化して分布が破られますが,三田さん
の「恒常が維持されている」ことを判断する基準になった時間スケールで,もとどうり
の膜に再構成されるでしょう(これは,疎水性相互作用でできたシステムが裾野の
ひろいエネルギー安定点をもっていること(大域安定)に対応すると考えられます).
つまり,その系自体で,自発的に(「恒常を維持する」の時空間スケールで)先と同じ
分布が再生する点が,岩石内の一点の系とは異なります.

この系自体への依存度が大きいことが,「恒常が維持されている」と,
「恒常性を維持するように見える」の意味の違いで,それは小項目による補足で
明示される必要があるわけです.

両者の包含順序を推定しますと,三田さんによる「恒常が維持されている」の分解
を見なければ確実なことはいえませんが,
「恒常性を維持するように見える」は,「恒常が維持されている」に含まれており,
それに類する出来事が起こるとすれば,必ず

「恒常が維持されている」 → 「恒常性を維持するように見える」

の順序で起こると推定いたします.

−−−−− 第1の点についての回答終わり −−−−−

第2の点については, つづく→.

飯田一浩
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