LIFE Mailinglist Archive for the Origins of Life Study

ID
104
DATE
09/22/1997 07:05:59 AM
TITLE
[life:000104] Re: What is life?
AUTHOR
"飯田一浩" <iida@***.***>
BODY


荒 様 Lifeの皆様

(続き)

# 番号を間違えてふってしまいました.

4.階層構造の話

> 最近はやりの「複雑系」でも階層の概念は重要なようですが、数学的な定式化
> はどの程度進んでいるのでしょうか?あまり話が聞こえてこないのですが。
>
> > 階層構造,再帰的構造は,単純な再帰式で書ける場合があります.
> > そういった再帰式もシステム構造の一つです.
>
> ということで安心していてもよいのでしょうか。


うーん.比較的静的な階層,例えば樹木や草花の枝分かれ,胚発生時の細胞の
配列/分化などに見られる階層構造などは,A. Lindenmayerの生成文法
L-system

{Lindenmayer, A. (1968), Mathematical models of cellular interaction in
development, Part I. and Part II, J. Theor. Biol. 18:280-299, 300-315.}

とその発展形で書けないこともないんですが,
もっと動的な場合,細胞が集合離散して組織をつくったり壊したり,村ができた

壊れたりといった場合に適当な表現はあまり無いと思います.

動的な時系列の構造については,たしか Crutchfiled が,Hidden Markov
Modelの逐次構成みたいな形で書こうとしていたと思います.

{Crutchfield, J.P. (1989), Inferring Statistical Complexity, Physical
Review Letters, 63:105-108.}

をご覧下さい.(たしかアルゴリズムの根っこは,大学の自分のTRか何かを
参照していたと思います.)

繰り返し等を考えなければ階層構造は,統計力学の最重要課題でもある
わけで....なんにしても階層的構造が融通無碍に生じたり,消えたり
するような生命システムの場合,これで万事OKという記述の枠組みはまだ無
いと思います.



5.自己崩壊過程の話

> > > 自己崩壊過程はより上位の階層から見ると代謝(構成要素の変換
> > > ネットワーク)のなかに含まれてしまいますね。
> > この視点は,なるほどと思いました.新鮮です.
>
> 例えば植物では古い葉が落ちるとき、内部の栄養素(というか再利用
> 可能な元素)が何らかの分子の形で新しい葉(組織)へと移動(転流
> といいます)していきます。古い葉の自己崩壊過程は植物個体にとっ
> ては代謝(生物的意味でも)になっています。植物個体の自己崩壊過
> 程はその存在近傍(ローカルな生態系)の代謝(構成要素の変換ネッ
> トワーク)になっています。元素を主体に考え、その土地や地域レベ
> ルでの元素の収支を考える(人間の収奪もある)ような研究をやって
> いる人もうちにはいます。恒星の爆発によってできた星間物質はやが
> てなにかに変換されたりしますし、本論ではないですがこういう考えは
> 古くからあります。

具体的なイメージが沸きます.:)

ところで,この「自己崩壊過程も上の階層から見れば,代謝」という
見方は,次のようなアイデア(全体の見方)と表裏一体に思えます.

つまり,階層をどんどん上に上ってゆくと,我々が意識できる全体系に
行き着きます.ということは,全体系が持っている代謝の性質として,
下層構造にあたる部分系の振る舞いが決まってしまうでしょうか?
上のアイデアではYESです.私もそのアイデアに賛成です.

問題は,ここでいう「全体系の代謝」を我々は全て知ることができる
とは限らないことです.

1)数理モデルの世界なら全体系を全て知っているものとして
   記述できます.

2)現実世界を計測して世界のモデルを作る場合は,
   系全体の情報を得ることは不可能ですから,上のアイデアは,
   実践的意義を持たなくなります.

2)の場合は,観測の限界を認めるところから記述をはじめる必要
  があり,注目する部分系を中心として書いてゆくという作業で
  あるため,Closureや,内部観察などの(私には)難しい議論
  が必要になってくるのだと理解しています.  

一口で言えば,1)は全体の見方,2)は部分の見方 です.

( 私は全体の見方で記述しようとしているつもりです.)


(続く)

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"Life and Evolution '97"
Kazuhiro Iida,
Fundamental Research Laboratories, NEC Corporation,
34 Miyuki-ga-Oka, Tsukuba, Ibaraki, 305 Japan.
TEL +81(298)50-1142, FAX +81(298)56-6136.


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